Personality disorders seem comparatively less tractable in terms of treatment, and our legal system is less willing to consider a plea of “not guilty by reason of insanity.”
訳
人格障害は治療の観点から比較的扱いにくいようであるが、我々の法体系は「精神異常(精神錯乱)の理由による無罪」申し立てを進んで考慮していない。
○ポイント1:less
"less"は、"little"の比較級で、「より少ない」という意味である事はお分かりかと思いますし、辞典を引けばすぐに出てくるでしょう。
で、問題なのは、忠実に「より少ない」と訳すとどうにも不恰好な訳になってしまう場合です。
特に、「比較」されるべき"than"以下の表現がない場合に多いです。この文が典型でしょう。
そういうときにどうするかといえば、単なる否定形だと思ってしまうのがよいと思います。この場合、前半は"less tractable"で、「より扱いにくい」となりますが、「より」をつけてしまうより、単に「扱いにくい」とした方が日本語らしいです。
更に前半は、"comparatively"という比較を表すような副詞がついているので、表現の重複を避ける意味でも、「より」はつけないほうがいいと思います。
○lessが訳しにくいとき→単なる否定と考える
○ポイント2:in terms of
"in terms of"は、二つの訳し方を頭に入れておいて下さい。
○"in terms of 〜"
1)〜の点から、〜に関して、〜の観点から
2)〜の言葉で、〜の用語で
○ポイント3:treatment
○"treatment"
1)治療
2)処遇
"treatment"は心理系、特に臨床系の英文には頻出ですが、ちょっと文脈を読まないといけません。この場合では「治療」以外の訳は考えなくてもよいのですが。
"treatment"は、いわゆる心理療法の文脈では「治療」と訳し、実験について書いている場合には、実験的「処遇」と訳します。
問題なのは、心理療法の治療効果の研究について書いているような場合にどっちの訳をあてはめるかです。結構悩むときがあります。前後の文意をふまえた上で、どちらがいいかを考えるようにしましょう。
○ポイント4:be willing to (do)
覚えておかないと何となく訳しにくい表現というのはいくつかあると思うのですが、これもその一つです。
○be willing to (do)
=進んで〜する
問題はこれに"less"がついていることです。「進んでより〜しない」という表現ではなんともわかりにくそうですね。今回のポイント1を見直すまでもなく「より」は邪魔ですね。「進んで〜しない」と訳しましょう。
○ポイント5:a plea of not guilty
"a plea of not guilty"は「無罪の申し立て」です。精神障害と法律というのは、強制入院や人権保護の問題などで、結構深く結びつきます。
心理学の専門の文章だからといって、法律関係の言葉が出ないというキマリはありません。どう訳せばいいかわからないときには、法律関係の訳もありうると思っておいて下さい。
○心理学の専門用語以外の専門用語の可能性も考えられるようにする。
○ポイント5:insanity
"insane"や"insanity"は一番しっくりくる訳は「狂った」「狂気」です。更にいえば、公に書けない言葉になってしまいます。こういう文章では、そのような訳し方は推奨されません。「精神障害」「精神錯乱」位にしておきましょう。
○"insane""insanity"→「精神障害」「精神錯乱」
○ポイント6:比較の対象は?
この文章では、"less"という「比較」級が使われています。普通、比較級は、"than"などを使って比較の対象があって初めて成り立ちます。
この文章の場合、"than"がありません。この手の文章を訳すとき、「そんなの気にしなくても別に訳せる」というのであれば構わないのですが、この"than"から後の内容をしっかりとつかめるかどうかで、意味がまるでわからなくなるときがあります。
この文でも、「訳す」まででOKであればココで終わりでもいいのですが、ちょっと考えてみたいと思います。
ココまで読んだ人の中で、この英文で「納得いかない」モノを感じた方はいないでしょうか。
例えば、精神障害者が犯罪を犯してしまったときに責任能力がないと見なされ、「無罪」あるいは「不起訴」になったりしますよね。
そういう場合もあるのに、訳の「『精神異常(精神錯乱)の理由による無罪』申し立てを進んで考慮していない。」という部分はおかしくないでしょうか。
ここで、「"than"以下」を考える必要が出てきます。特に精神障害や心理療法について考えるときに、比較のされ方は大きく2パターンあると考えておいてください。
○精神障害をめぐる比較のあり方
1)正常vs異常
2)特定の精神障害vsその他の障害
この場合はどちらかというと、1)と考えると上述の「おかしさ」が出てしまいます。この場合は2)の方です。
人格障害は、他の精神障害と比べて、「『精神異常(精神錯乱)の理由による無罪』申し立てを進んで考慮していない。」のです。この場合は訳だけ考えればどうってことないのですが、内容の把握がないと訳せないようなときには、この手の理解がどうしても必要になります。
実際、精神鑑定の結果、「人格障害」と診断されても有罪、ある場合には極刑になるときもありますよね。
また、"than"を用いない、あるいは比較の対象を明示しないで用いられる比較級は、比較の対象について、一般的に書き手と読み手の間の共通合意、あるいは暗黙の了解があるときであることを付け加えておきます。
その辺りについては、↓こちらのブログの記事をご覧下さい。
【語法・基本】比較構文の考え方
英語の読み方―パズルのように英文を読む―もよろしくお願いいたしますm(__)m
今回のまとめ
○lessが訳しにくいとき→単なる否定と考える
○"in terms of 〜"
1)〜の点から、〜に関して、〜の観点から
2)〜の言葉で、〜の用語で
○"treatment"
1)治療
2)処遇
○be willing to (do)
=進んで〜する
○心理学の専門用語以外の専門用語の可能性も考えられるようにする。
○"insane""insanity"→「精神障害」「精神錯乱」
○精神障害をめぐる比較のあり方
1)正常vs異常
2)特定の精神障害vsその他の障害